(−うるさい、うるさい。)


昨日からずっと、心の奥で気になって。
だけど気にしたくなくて、グルグルしている気持ちがある。

(俺は、アイツに・・・アイツと・・・・)




【ゲランル女】




『分かってやってる風には、見えねぇんだけど。』

昨日言われた言葉が、まだ頭の中でリフレインしてる。離れてくれない。

「―うるせぇな・・・。」

(俺が、どうしようと関係ねぇじゃねぇか。てか、なんでお前にそんなコト・・・)


―その時からずっと。
心の奥で気になって、だけど気にしたくなくてグルグルしている気持ちがある。


「仁、コンビニ寄っていい?見たい雑誌あるんだけど。」

の呼ぶ声に、俺は足をとめる。
うっすらと暗くなった道のり。イライラしながら先を歩く俺の位置まで、が駆け寄る。

「−・・・おぉ。」

それ以上、言葉が出なかった。

駆け寄ってきたがつけている『GUERLAIN』の香りが、吹き抜ける風に乗って、俺の鼻に薫ったから。
俺はコイツの香りに惑わされないように目を閉じて、出来るだけ普段どおりに声をつむぐ。

「・・・てかさ。俺も欲しい雑誌あっから、一緒に買って部屋で見たら?」

俺がそう言うと、が『それもそうか。じゃあ、ちょっと待ってて。』と、足早にコンビニに入って行った。
俺はとりあえず、言われたとおりに外でボーっと待っていた。

―空が藍色に染まっていく。
『もうすっかり夜なのか』と空を眺めていたら、が紙袋を抱えて戻ってきた。

「仁の雑誌も、買っておいてやったぞ。あとで、金払えよ。」

「え、マジで。てか俺欲しい雑誌の名前、お前に言ったっけ?」

俺が不思議そうな顔をしていたら、が余裕の笑みを浮かべて、俺を見つめた。


「−私に、お前のことが分からないと思うの?」

の笑顔とセリフに、何故か真っ赤になった自分が、すげぇ信じらんなくて。
それが異常に恥ずかしくて。
俺は、ずーっと下を向いて歩いていた。

(クソ・・・同い年で、なんだよその雰囲気はっ!)
きっと、このオードトワレが、コイツを大人に押し上げるんだ。



「お邪魔しまーす。」

俺は部屋に誰もいない事を知りながら、いちよう挨拶をして玄関を上がりつつ
勝手知ったる電気をつけ、そのまま適当にスリッパを引っつかみ、パカパカ鳴らしてリビングまでのフローリングを歩く。

は、今ここで一人暮らしをしていて、俺はよく遊びにくる。
てかマジ遊びに来過ぎて、俺のお泊りクッズや俺の寝床スペースまで出来ている。

これで、付き合ってないのか不思議なくらい・・・・



『―いい加減にしとけよ。お前・・・いつまで、アイツと友達してるつもり?』



(・・・・最悪、思い出しちったじゃんか。)
俺は、持っていた紙袋を乱暴にソファー前のテーブルへ投げると、そのままドカリとソファーへ腰掛けた。

「・・・・仁。貴様は、自己の言動と私の部屋に入る行動が、あまりに違いすぎる。」

「難しい事、言うな。・・・・お前の部屋は、もうすでに俺の部屋へと化している!」

俺が誇らしげに笑うと、はため息をつきつつ、冷蔵庫から俺専用のペットボトルを投げ渡してくれた。


「確かに半分以上の持ち物が、お前のだな。
・・・もっと、余計な家具でも、無理やり入れ込んでおけば良かった。
そしたらお前に、部屋を占領されずに済んだのになぁ。」

が苦笑いしながら、紙袋を開けてさっき買った雑誌を広げながら、俺のすぐ隣へと腰掛ける。
俺も、とりあえず自分の雑誌を開いて、適当に眺める。


「・・・将来、欲しい香水があるの。」


ペラペラと雑誌をめくりながら、が呟いた。俺はそれを聞いて、自分の雑誌をめくる手を止めた。

「・・・は、今じゃなくて?」

「うん・・・わ、あった。これこれ。」

雑誌を指差すの先には、2万円に手が届きそうな、香水の写真。
それはまるで、ミラーボールのように輝いていた。

「GUERLAINの『夜飛行』。
この香水の名前は、創立者と仲の良かった作家の作品と、同じ名前なの。
『星の王子様』って作品知ってる?
童話『星の王子様』の作家サンテグジュペリ。それ書いた人への、賞賛らしいよ。」

「へぇ・・・」

女物の香水だけど、コイツが普段つけている香りと同じブランドだと言うことは
男の俺にも、かろうじて分かった。

「・・・まぁ私も、よく知らないんだけどね。」

「へぇ・・・って、知らねぇのかよ!」

思わずツッコんだら、が俺の目を見て流暢に語りだした。

「分かりやすいノリツッコミね。
このお笑いブームの沈下しつつある現状において、正当過ぎて、逆に面白いわ。」

「お前ナニモンだよ、てか、なに評価だよ。」

「そうね・・・4点。100点中の。

低いな!!『逆に面白い』んじゃなかったのかよ!!」

「今のは、さっきより面白い。5点。

1点上がった!てか、もういいよ!!・・・・・はぁ。疲れた・・・」

なんだかぐったりした俺は、ソファーに寝転がりつつ、を下から見上げた。

「で?なんで欲しいんだよ。」

ゴロゴロとに擦り寄ってテキトーにたずねて見たら、もテキトーに答えてきた。

「名前も、なんだかカッコ良い。エロいし。

「おま!・・・・女がエロいとか言うなよっ!(変に意識するわ、このアホ!)」

俺は近くにあったクッションを引っつかんで、手繰り寄せ
そのまま雑誌を床に放って、クッションを抱え込んだ。

(また、顔が赤い気がする・・・ガキか、俺は!!)

「ちょっと、クッションくしゃくしゃにしないでよ?
まぁ、エロいのは別として・・・大人の香りって感じでしょ。最初の香りが少し苦いらしくて。さ。」



「―大人・・・ねぇ?」

俺はの言葉に、また昨日の気持ちや情景がフラッシュバックした。


『お前さ、いつもなら女は振り向かせたい派じゃん?
いい加減、そういう子供っぽい考え、直せ。そしたら、自分の気持ちにだって・・・―』


(―うるせぇんだよ。)



「・・・・・いいって、お前。それ以上大人にならなくて。」

ふてくされた様につぶやいた俺の顔を、が覗き込んできた。

「どうした、仁。お前・・・可笑しいぞ?」

「うるせぇな!・・・っなんでもねぇ。」

どう考えてもスネてる俺を見て、が悪そうな顔をした。

「『うるさい』と言われるほど、言ってない。
そういえば、昨日・・・亀梨にあったぞ。お前のこと心配してた。」

―その名前を聞いた一瞬。
目の前が真っ白になるかと思うくらい、緊張した。

「−・・・うるさいって。」

思わず、声が震えた。

その動揺は、少なくとも俺の欲しがってる雑誌すら分かるに、バレない訳がなくて。
は、俺の震えた声を聞いて、より悪そうな顔をして・・・


「・・・・仁。」

は甘い声で、俺の名前を呼び
寝転んでいる俺を、あろうことか・・・・


「あぁ?・・・って、おい!?」

―押し倒して、覆い被さってきた。


「―お、お前ぇ!!なにしてんの!?」

パニックに陥った俺の目を見据えるため、の両手が俺の頬を包んだ。


「仁。いい加減にしないか。私が分からないとでも思っているのか?」

俺の上から射抜くように注がれるの視線に、俺は息が詰まりそうだ。


「―亀梨に何を言われたか知らないが・・・・気づいていないのは、お前だけだ。
むしろ、気づいてほしく無かったんだろ?」


の顔が、近い。


「―自分でも分からない気持ちを、私や他の奴らに気付かれるのが怖かったんだろ?
自分でもどうしたら良いか分からないのに、亀梨に急かされて

困っていたんだろう?
おかしいなぁ?
いつもの、仁らしくないよなぁ?
なんで、こんな事になったんだろうなぁ?
なんでだろうなぁ?
・・・なんで私と一緒にいると、こんなにお前の気持ちは

私に惹かれてしまうんだろうなぁ?」


の言葉が、息が。
身に付けているオードトワレの薫りが・・・



「・・・・うるっせぇんだよ!」

―俺を、狂わせた。



「なんだよ、どいつもコイツも・・・!
俺にどーしろっつーんだよ!!俺のなにが、分かってねぇっつーんだよ!!」

俺は、目の前にいるを、睨んだ。

「・・・長い間お前の連れやってて
お互いに、付き合ってる違う相手も、いたりしたし
俺だって、お前とは・・・友達のつもりだったんだ・・・!」

俺はわめき立てながら、自分の上にいたの腕を掴んで、引き倒した。

「―・・っ!イッタいな、このバカ西!!お前、女相手に全力で・・・・」



が体を起こしたのと同時に、俺は噛み付くようなキスをした。

不意にしたせいで、はモガモガと抵抗しているが、俺はそれすら腕で封じ込めた。
そして、を逃さないように必死になって両腕で強く抱き込み、より深く口付ける。

気が、遠くなりそうだった。



「・・・それ以上、テメェに・・・大人になられたら・・・・・
今の・・・ガキな俺は、どうやってお前に追いついたらいんだよっ!

どうやって・・・お前と同じ視線に立って、お前に・・・告りゃいいんだよ・・・・」


(惚れすぎて、身動きが取れない。)


息を切らす二人の呼吸音が、の部屋に響いた。
そして今の俺は、自分の衝動的な行動のせいで、目の前のを見れずに俯いた。
すると、がそんな俺を笑い飛ばした。

「―・・・・お前は、ホントにヘタレだな!」

の言葉に、俺は思わず奇妙な声をあげてしまう。

「はぁ!?」

うるさい!!

はさっきの俺と同じ文句を言いつつ、さっき押し倒した俺の力を超えるぐらいの力
俺の頭を、持っていた雑誌で叩いた。

「−っ・・・・!?」

あまりの痛さで声が出ない俺を、が鼻で笑った。
そして立ち上がり、痛さにうめいている俺を指差して、高らかに言い切った。



「―無駄な抵抗や逃避行為は、やめるんだな。
お前は、もう私に惚れてるんだよ!」

はその時、俺以上に男前な顔をしていた。

「―覚悟しとけ、仁。テメェに浮気は、させねぇぞ。」


が俺に、そう言って笑った瞬間。
俺はをもう一度、抱きしめていた。



「―・・・・・・で、惚気を聞かされる為に、俺はここに呼ばれたのか?」

俺が、わざわざの部屋に呼び込んだ亀は、不機嫌そうに俺を睨んだ。

「そうじゃねぇよ・・・てか、お前・・・と組んでたろ?」

俺が(さっきから、ずっとv)を腕に抱きかかえ亀を威嚇していたら
二人が思いっきり、ため息を吐いた。

「―・・・まさか。俺は『少女漫画みたいにキラキラ片思い』してるお前が、とてつもなくキモいから
さっさと自分の気持ちに気づいてもらおうと思っただけだ。」

だれが『キラキラ片思い』だ!!キモい言い方してんじゃねぇよ!!」

「お前な、あれが『キラキラ片思い』じゃなかったらなんだっつーんだ。
キモかったのは、お前だ。」

「私も、昨日は『は気づいてるクセに、アイツの気持ちに対処しないのが悪い』って怒られたから
今日はアグレッシブに攻めて見たのよ。

は、攻めすぎ!!なに俺を押し倒した上に、頭叩いてんの!?」

抱きかかえているの頭を、俺がポスポス叩きながら抗議していると
亀が驚いた顔をしてを見つめた。

「え・・・、お前まさか・・・押し倒したの?

「―・・・・・・いや、その後襲ってきたのは、仁だ。

「お、襲ってねぇよ!!」


「「・・・・・へぇ?ほーぅ?ふーん・・・・・?」」


なにか言いた気な二人の視線に晒されて、俺は所在無さ気に、またクッションを掴んで抱き寄せた。
そんな俺を見て、さっきまで俺に抱えられていたが、立ち上がって亀の肩を叩いた。

「―悪かったな、亀梨。まぁ、そういうわけだ。
コイツの面倒は、今まで以上に私が見ていくから安心しろ。

なんだか拾われたペットみたいな言われ方に、俺は眉をひそめる。

「―・・・分かった。とりあえず、あれだ。オメデトウ。末永くお幸せに。」

ものすごく安っぽくて嘘っぽい祝いの言葉を残して、亀は帰っていった。
自分で呼び出しておいてなんだけど、結構言われたい放題で傷ついた。

(―俺、のコトってなると・・・なんかガキっぽいうえに、ヘタレすぎねぇ?)

現に今の俺は、亀との仲に妬いてしまい、亀を呼んで見せ付けてしまった。
俺は、普段と違う自分に情けなくなる反面、強くを抱きしめた。

「―ごめん・・・・・俺は、まだお前みたいに大人になれねぇ。
でも、お前がさっき『欲しい』って言ってた香水は、いつか俺が買ってやるから・・・・」

抱きしめながら俺がに囁くと、は俺の腕をペチペチ叩いて来た。

「いや、別に自分で買うって。てか、急にギュウギュウと暑苦しいなテメェ!」

「(うわ、ヒデェ!)いいから、聞けって。
その・・・お前が!お前がゲランの『夜間飛行』が似合うくらい、大人のいい女になるまで・・・

それまでに。
俺も、お前に似合う、イイ男になっから。」

を抱きとめていると、ほのかなゲランの薫りでも、俺に染む気がする。
とてつもなく、落ち着く。


(―・・・あぁ、そうか。)

「―俺がお前に惚れてるくらい、お前も俺に惚れさせてやっから。」


(最初から俺は、お前に惹かれていたんだな。)


「―・・・・それは、どうも。楽しみに待ってるよ。」

「今日のところは、香水とは違う夜間飛行でも楽しみませんか?(ドキドキv)」

「―・・・・ヤ○チンめ。そんなにヤりたきゃ、一人でこいてろ。

「(やっぱり、ヒデェ!!)」






























*****
相互記念に、ぽこ様からいただきました!!
ホント感動モノですよ。
このヒロインちゃん最強であって最高です。
さすがぽこ様!!
尊敬してます!!!
素敵夢ありがとうございました!!!!

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